AI導入の研修で「まず何をさせればいいですか」と聞かれたら、当方は「書く仕事からです」と答えています。成果がすぐ見えて、失敗のコストが低く、毎日発生するからです。ただし、書く仕事の中にも任せる順番があります。
なぜ「書く仕事」から始めるのか
生成AIの得意技は、ざっくり言えば「ある情報を、別の形の文章に変えること」です。会議の録音を議事録に。走り書きのメモを日報に。箇条書きをお客様向けの丁寧なメールに。
この種の仕事は、元になる情報が手元に揃っています。AIは形を整えるだけなので、内容が大きく間違いようがない。しかも書く仕事は毎日あるので、効果が毎日積み上がります。最初の一歩に向いているのはこのためです。
第1段階:変換系(今日から任せてよい)
まず任せるべきは「情報が全部手元にあって、形を変えるだけ」の仕事です。
- 会議の録音・メモ → 議事録
- その日の作業の走り書き → 日報・週報
- 伝えたいことの箇条書き → 社内連絡・お知らせ文
- 長い資料 → 要点の抜き書き
コツは、仕上がりに完璧を求めないことです。8割の下書きが数秒で出てくること自体が価値で、残り2割は人が直す。ゼロから書くのと8割から直すのでは、かかる時間がまるで違います。
第2段階:下書き系(人の確認を挟んで任せる)
次の段階が、相手のあるやり取りの下書きです。問い合わせへの返信案、見積に添える説明文、依頼を断るときの角の立たない文面。
ここで守ってほしいルールがひとつあります。AIが書いた文章を、読まずにそのまま送らないこと。宛先・固有名詞・約束ごと(納期・金額・できる/できない)は必ず人の目で確かめます。AIの下書きは「たたき台」であって「決裁済みの文書」ではありません。この一線を社内で共有しておくと、事故が起きません。
まだ任せないほうがいいもの
書く仕事の中にも、AIに主導権を渡さないほうがいいものがあります。数字と約束が正しさの中心にある文書です。
見積書の金額、契約書の条件、法令にかかわる記載。これらは間違いがそのまま損害になる領域で、AIの「それらしく書く」能力がむしろ危険に働きます。使うとしても、金額や条件は人が決めて、その説明文だけをAIに書かせる。役割分担をはっきりさせてください。
また、会社の外に出す文章に機密や個人情報を含める場合の線引きは、別の記事「AIに入れてよい情報・いけない情報」に書きました。書く仕事を任せる前に、そちらのルールを先に決めておくのが安全です。
最初の一週間のやり方
難しく考えず、こう始めるのがおすすめです。
- 毎日書いている文書をひとつ選ぶ(日報でも連絡文でもよい)
- 今日のぶんを、まずAIに下書きさせてから直す。これを一週間続ける
- かかった時間を、前のやり方とざっくり比べる
- うまくいった指示文(プロンプト)はメモして使い回す
一週間で「これは使える」「うちの仕事だとここが合わない」が体感でわかります。その実感が、次にどこへ広げるかの一番確かな判断材料になります。